秋の虫
9月になると、虫の声が聞こえ始める、秋の深まりにつれて仲間も増え、合奏の強さも高まる。雨戸を閉めても聞こえてくる、まさに、ふるさと交響曲(こうきょうきょく)だった。
畑に行けば昼間でも鳴いていた。主役はコオロギである。その声は思春期の少年には切なく聞こえた。
11月、いつしか潮が引いて行くように虫の声は遠ざかり、少年には切なさだけが残った。
虫かご
大潟分校の前に、若い奥さんが営むお洒落な文房具屋さんがあった。そこにはノートや鉛筆はもちろん、お菓子やパン、そして、子供たちの夢を誘う釣り道具はもちろん、漫画王、冒険王などの月刊誌もならんでいた。
夏休み前には、補虫網に加えて、早くも真新しい竹の匂いがする虫かごが数個軒先に並べられていた。奥さんは子供心を知っている人だったんだなと今気づいた。
台風
想い出の中の台風は時折夢に出てくる。古い木造の納屋はきしみ、大揺れに揺れた。瓦は何度も吹き飛ばされた、それでも屋根全体が吹き飛ぶことはなかった。
環貫で止めた二階の雨戸の節穴から見た大潟湾では潮煙が息をするように次から次へと、さかんに舞い上がっていた。そして、防波堤に打ち寄せる波は砕け散って家の畑に容赦なく飛び込んでいた。