ふるさとの道は分かりやすい、馬越の坂を越えて北の脇へ通じる道が特に懐かしい、南林を行くと「片思いだった娘」の家の傍を通る。あの娘はどうなっただろう。不思議なことに思い出の中の娘は年を取らない、あどけない丸い瞳のままだ。

通学路を行く、稲穂が揺れている、その香りが脳天に突き刺さる、先祖の中には農家の者もいたのだろう、その遺伝子が共鳴しているのだ。

彼岸花

秋のお彼岸のころ、通学路の両端にこの花は正確に現れる、不思議なことにこの花を見るとなぜか子供心に懐かしさと悲しさが交錯するような感動を受けたのを覚えている。

見能林少学校では、毎年このころに運動会があった。運動会のプログラムの最後は地区対抗のリレーであったが、出番のない私は林埼の森を過ぎ、うてび川の近くまで帰ってきていた、すると秋風に載って歓声が背後から追ってきた。

青切りみかん

見能林少学校の運動会の思い出の片隅にあるのは、この青いみかんである。昼の休憩時間、運動場のむしろに座って弁当をひろげる、隣の子はこのみかんを持ってきていた。私はあのみかんは一体どんな味がするんだろうとは思ったが欲しいとは思わなかった。

結局、このようなみかんを食べたのは大人になってからだったが、やっぱり想像していたとおりであまり美味しいとは思えない味であった。