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37歳~51歳、国内線機長から国際線副操縦士へ

国内線機長としての勤務

 直吉は37歳から45歳まで主として国内線機長として勤務するようになった。旅客機の通常操作は習熟した副操縦士が行い、機長はそれを指導し確認するようになっている。しかし、エンジントラブルのような重大事故が発生した場合はもちろんのこと、運航環境の変化で副操縦士と管制塔の連絡が忙しくなったときとか、副操縦士の体調がすぐれないようなときにも機長自らが進んで操縦を行うようになっている。

1.機長として当然判断する事例

(1)濃霧に閉ざされた空港への着陸断念

 着陸態勢に入ったところで目的地の空港に濃霧が立ち込めてきて視界がまったく見えない状態となった。日も暮れかけていたので早く着陸したいと副操縦士は内心あせっていた。そこで、直吉は視界良好な別の空港へ着陸できないか管制塔と相談し、お客様にはご不便をおかけしたが安全確保のため別の空港に着陸した。

(2)計器飛行システムの故障警報発生時

 突然、計器飛行システムの故障警報が発生した。副操縦士は直ちに手動操縦に切り替えて操作を開始した。直吉は近所の空港に着陸して計器を修理してから再出発するぞと判断、流暢な英語で管制塔とやりとりをして別の空港にいったん着陸し修理してから目的地へ再出発した。1時間くらい遅れてお客様にはご不便をおかけしたが安全は確保できた。

(3)お客様の中から急病人が出たときなど異常な事態が発生した時

 飛行中に一人のお客様が「異常な頭痛がする」と機内乗務員(スチュアーデス)に救いを求められた。機内に医者は乗り合わせていなかった、直吉は直ちに近所の空港に連絡、救急車の手配を依頼して緊急着陸し対処した。結果的にお客様はくも膜下出血の一歩手前だったが、手術が間に合い命を守ることができた。

2.夜間飛行

 パイロットになれば、すぐに経験するのが夜間飛行である。昔の飛行機は夜間でも人間が操縦していたが、最近の飛行機は小型のプロペラ機でも計器飛行(自動操縦)ができるようになっている。しかし、油断は禁物で、計器が故障する場合も想定し、副操縦士および機長は常に自動操縦の様子を見守るとともに、異常があればただちに手動操作するように義務付けられている。

3.結婚適齢期を迎えて

 あたりまえといえばあたりまえだが、避けては通れない人生の一大事である。別にパイロットでなくても同様だが、毎日飛行機に乗っていると、その仕事にのめりこむので中にはつい結婚適齢期を過ぎてしまう者もいるらしい。

妖怪リューヒョーンの娘と結婚

 それは37歳の初夏のことだった。羽田から北海道のオホーツク紋別空港に飛来し、帰り便は翌日になるとのことで紋別で宿泊することになった。五月の紋別は街路樹の桜は満開だが、港にはまだ流氷が少しのこっていた。そんな中いつものようにタクシーを走らせ紋別プリンスホテルにチェックインした時のことである。ホテルの受付で新入社員らしい女性担当者が対応に出てきたのだが、なんと日本語でなく英語で直吉に対応してきたのであった。直吉はちょっと面食らったが、こちらも英語で応じてやると彼女は面白がって最後までといってもたったの5分くらいの間だったが英語で受付業務をこなしたのだった。さほど美人ではないが、小さな眼が黒くて澄んでいてクリッとしていて、シマリスのようなすばしこい感じで反応する面白い女性だった。そして、今度は6月にフライトがあって行ってみたらまたもやあの娘がでてきて今度は流暢な日本語でさも「あんたなんか知りませんよ」という風に冷淡にいんぎんにあしらわれたのであった。

 直吉はあてがはずれて少しがっかりして宿泊し、翌朝チェックアウトしにいったらまたもやあの娘があらわれて、ニコニコしながら今度は愛想よく英語で対応するのだった。そこで、直吉はなんだか狐かたぬきに化かされているような気がしてちょっと気色わるうなったが今度はこちらが冷淡に英語で応じてやったら、料金を受け取りさっさと領収書を渡すと「サンキュ~、バハハ~イ」といって例のシマリスみたいな眼でパチッと1回だけウインクして魔女のように奥の方にフイと消えてしまったのである。それからというもの、直吉はあいかわらず、毎日日本中のあちこちのローカル空港にフライトし、多忙を極めていたが、一か月ごとに紋別オホーツク空港にもいくチャンスがあった。最初は狐かたぬきに化かされているようで気色わるかったがいつしか純真でいたずらっぽい彼女が女神のように思えてきたのであった。ええいこうなったら一回化かされてみたれと直吉がデイトに誘ってみたら、「今日は駄目よ、来月なら食事に行ってもいいかもしれないわ」と訳のわからない言葉を残してまたもやほんまに妖怪のように目の前でフイと煙のごとく消えてしまったのであった。

 それからというもの、行くたびに同じことを言っては消えていくので、直吉はしまいには腹が立ってきて「おまえは一体何者なんだ?」と聞いてみたら、即座に答えが返ってきて「あなたの未来のお嫁さんよ」というではないか、そして、またもや怪しげなウインクを残してフイと奥の方にひっこんでしまったのである。結局二人は半年後に結婚したのであったが、結婚後も直吉はその嫁に振り回されてしまうのである。とはいうものの、仲は良くて、次々と子供二人(愛子と夢男)もできて直吉は羽田の近くにマイホームを建てて、休日にはどこにもいかず嫁と子供と一緒に暮らしていたのであった。月に10日くらいは休みがあるのでゆったりと過ごすことができた。

 ある日、ためしに、「おまえはいったい初めて会ったとき、なんで初対面のわしにいきなり英語で話しかけてきたんだ」と聞いてみたら、「あなたの顔を見たら、この人はパイロットだと直感で分かったわ、そして、この人は私の旦那さんになる人だと思ったのよ」「ではなんでフイフイと狸みたいに現れては消えよったんぞ」と聞いてみたら、「よくぞ聞いてくれました。実は私はオホーツクの妖怪リューヒョーンの娘なんです。(ほんとはね、あなたの気をひくためよ、といってもよかったんだけど、それじゃちっともおもしろくないからさ、わざとに茶化してやったのよ、へへんだ。)」「えっ、なんだそれは?」「ほんとよ、嘘じゃなくってよ、だからそのうちオホーツクからのお迎えがきたら帰らなくてはならないの」と悲しげな表情さえも浮かべるのであった。「なんだ冗談は笑いながらいうもんだぜそんな顔をするなよ」「・・・・・」「あ~あ困ちゃったな、おれは妖怪の娘をもらっちゃったのかい、ウワッハハハハハ」と笑い飛ばしてはみたものの、相手はだまって涙さえも可愛い眼にいっぱい溢れそうなくらい浮かべて見上げてくるので(馬鹿な話はするなよ気色わるい)といいたかったが(これは演技とは思えないな、若しかしてほんとかなあ、と思っちゃてよ、)結局、雰囲気的にはその言葉は飲み込まざるをえなかった。

 

国際線副操縦士としての勤務

 46歳から国際線副操縦士(給料は国内線機長なみ)として勤務することになった。 海外の空港へ離着陸するということで日本国内と違うのは外国の領空を通過するのでそれなりのルールを守らなければならないし、なんといっても不慣れな外国の空港への初めての着陸は緊張するものだった。

1.準備

 まずはフライトシミュレーターで出発から到着までの模擬操作を行うことになるのだが、機体もこれまでの中型機ではなく最新型のジャンボジェット機となるので、計器やスイッチの配置、その見方、操作方法がまるっきり違うのでフライトシミュレータでもこれに慣れるまでに相当な時間がかかってしまった。しかし、飛行機の基本的な操縦手順や管制塔との連絡方法、乗組員との協力方法は今までと変わらないのでその点では初心者のような不安感はなかった。

2.経験を広げてゆく

 まずは近距離の韓国、台湾、北京、グアムなどへの飛行からはじまり、グアム、ベトナム、フィリピン、シンガポール、2年後にアメリカ、ヨーロッパへと次第に長距離航路へと経験を広げていった。

3.パイロットの定期的な技能(実技)試験と身体検査

 これは国際線、国内線に関係なく、すべての自社の副操縦士、機長について2年ごとに行われる。目的はお客様を快適に目的地へお運びする技能・知識を確認するためである。自動車の免許更新と似ているが、厳しさがまったく違う、自動車の場合免許更新では実技試験はないが、航空機の場合は従来型と最新型の2機種についての技能試験がある。

4.国際線機長になるための準備

 副操縦士は経験を積むと機長になるのは外観上は普通のことのように見えるが、実際には機長としての技量と知識が備わっているか確かめるための厳格な試験がある。

5.国内線でも国際線でもこなすパイロットになるのが目標

 大手航空会社に共通なことであり、旅客機のパイロットに求められるとうぜんの資質である。