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 サザエ採り

 今から50年以上前、10歳くらいの私は夏休みになると、待ちかねたように三本松の磯でサザエ採りに熱中した。

 そのころ、磯に潜る子供はあまりいなかった。だから、三本松のサザエやアワビは総じて減少することもなく、かと言って増加することもなく、毎年、適当にちらほらと生存していたのであった。そして、大潮の時期になると、驚くほど沖の方まで歩いて行けるようになるので、これまで行ったことが無いようなポイントに潜れるようなことがあった。すると、そこにはみごとなサザエやアワビを、次々と見つけることができたりして、幼かった私の心をよけいにワクワクさせてくれたのであった。

 
 

 今では磯で素人がサザエやアワビを採取することは漁業組合から禁止されているらしいが、昔はそんな規制はなかった。そもそも三本松の磯での貝採りなどは子供の遊びとして、容認されていたのであった。玄人の漁師は沖合の無人島で潜水して本格的な漁をしていたのである。

 サザエは壺焼きが最高に美味い、この味を覚えたのは小学校5年生くらいだった。たぶん、三本松の磯に私が潜り始めたころであり、最初の獲物がサザエだったからであろう。しかし、そんな子供が壺焼きなど知ろうはずがない、おそらく母が知っていたのであろうと思われる。そういえば手際よく、七輪に網をかけ団扇で煽いで火を起こして、得意げに焼いていたのは母だった。焼き初めに醤油を溢れない程度にサザエの口から適当にたらしこんでおく、するとやがて香ばしい独特の「サザエの壺焼き」の匂いがあたり一面にひろがるのである。この匂いは風に乗って100mくらい先のよその家でも匂うので付近の住民は「ええ匂いじゃのう」と言っていたに違いない。

 ところで、幼かった私がなぜ三本松の磯に潜るようになったのかというと、年上の見知らぬ青年が得意そうに腰の網袋にサザエやアワビを一杯詰め込んで、我が家の横を通る姿を見て、三本松の磯での狩猟の様子を子供なりに想像して、挑戦し始めたのだろうと思われる。そんなこともあってか、私は幼いころから一人で三本松の磯へもぐりに行っていたのであった。