私が幼児のころ、はじめて買った水眼鏡を付けておそるおそる海に潜り、はじめて見つけた生き物こそがイソスジエビであった。そのころはそういう正式の名前など知る由もなかったが、不思議なことに私は子供ながら本能的にこれは「エビ」だと感じたのであった。おそらく先祖から伝わった遺伝子が反応したのだと思われる。
ふだんは海草を食べているが、雑食性であり死んだ魚の肉や生きているゴカイなども食べる。動きに敏捷性がないので生きている魚をとらえるようなことはできない。繁殖を終えて自然に死んだ魚の肉をたべたりしているのだ。単独行動はせず数匹ずつ群れになって行動している。大群になっているような様子はなく、石垣の割れ目などに数匹ずつ潜んでいるのである。
おもしろいのは好奇心が強いのか、人間が近づいても捕獲しなければ逃げる様子はなく、指を近づけると寄ってきて「これはなんだろう?」と確かめるような行動をする。であるから、私がはじめて潜ったときにもこの生き物は悠然と私の顔の前に寄ってきたのであった。