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26/06/26、終日航海のサンデッキで見た夢より

 にっぽん丸は進路を横浜に向けゆったりと進んでいた。わずか二日間ではあったが、天候にも恵まれ、初めての小笠原に行ってきたという余韻と満足感に船内は包まれていた。早朝のプロムナードデッキに出てみると、洋々たる大海原には島影も見えず、そこにはただほほを撫でる微風とかすかな波音が聞こえるだけだった。そんな中で、古びた木製の椅子に座ると、私はうつらうつらと下記のような小笠原の夢を見ていたのだった。

1.もういちど行ってみたい理由

 東京から1000km南方の洋上にある小笠原には空港はない、通常なら定期船小笠原丸で25時間かけて行くしかない、そんな絶海にありながら旅人は小笠原を離れるにあたって、できればもう一度行きたくなるという。おそらくそれは、あまりにも小笠原のスケールが大きいので、まだまだ見残してきたところがあり、もっと見てみたい、体験したいという新たな願望が沸いてくるためだと思われる。

2.人情味豊かな小笠原

 小笠原は、東京都に所属している。東京といえば思い浮かべるのは都心の交差点や、東京駅の連絡通路の人の波だ、そこには無数の人が行き交っているが見知らぬ人ばかりだ。 だから、東京の雑踏では、挨拶を交わすこともなければ、誰かが倒れていても知らぬふりをして通り過ぎてゆくのが普通になっている。一方、小笠原の母島では島の子供たちが旅人に必ず挨拶をしてくれるそうだ。父島ではさすがに母島のような雰囲気は無いが、旅人には笑顔で接してくれるし、困っているようだとすかさず話しかけてくれて手をさしのべてくれる。

3.高齢化とは無縁の島だという

 世界遺産を守る公務員、あるいはツアーガイドとして、あるいは旅館運営のために若い人達が都心から移住してきている。その一方で高度な医療施設や老人保養施設がないため、高齢者は逆に本土の方へ転出してゆく傾向になっているとのことだった。

4.小笠原に行くには船しかない

 この点については旅人の考え方に委ねるしかないが、私の感想では今回の経験から、時間に余裕があれば船の旅も良いのではないかと思われた。人生の節目となる記念日を船長をはじめ乗客全員が祝福してくれる思ってもみなかった豪華なサプライズ、毎日、めったに味わえない美食三昧、何度でも入れるグランドバスで人生の垢を流し命の洗濯もできてしまう、昼間は自然観察講座あり、夜は大劇場で有名アーティストによる演奏や歌謡、はてはダンスや落語まであるという天国のような船旅、確かに定期船よりは少々割高だけど、日ごろから蓄えてきた小遣い程度でなんとかなる。実際に体験してみると高齢者には飛行機旅行より豪華客船クルーズの方が冥土のみやげには良さそうだ。

5.孤高の海洋島へ命はどのように運ばれてきたのか

 名著「世界遺産、小笠原(JTBパブリシング発行)」によれば、小笠原諸島は、4800万年前から5000万年前にかけて、海底火山が隆起してできた島で、一度も大陸と陸続きになったことがない。こうした島を海洋島という。ガラパゴス諸島や、ハワイ諸島もこの海洋島だ。一方、地殻変動の過程で大陸とつながったり引き離れたりした島が大陸島。琉球諸島は、これにあたる。大陸島では、地続きだったときに植物や動物が渡ってきたが、海洋島の場合、海によって隔絶されている。

 丸裸で太平洋に突き出していた小笠原諸島に、生き物たちはいったいどのようにしてたどり着いたのだろうか。あるものたちは風によって運ばれ、また、あるものは海流に乗って。あるいは翼をもつものは自力で、またはその糞に紛れて。いわゆる3W、風(Wind)、波(Wave)、翼(Wing)により、数少ない生き物だけが海を越えて小笠原の島々にたどり着くことが出来た。しかし、海を越えるのが困難だったグループもいる。だから、大陸には当然いるはずの生物グループが、小笠原の生物層ではそっくり欠けていたりするのだ。

 小笠原諸島には本来、オガサワラオオコウモリを除き、哺乳類がいなかった。もともとカエルやミミズもいなかった。ブナ科の植物が存在しないのはドングリのような実では波に浮くことができなかったからだ。

6.見残してきた南島

 船で偶然であった高齢の夫婦、「南島は良かったですよ」とその感想を聞かせてくれた。私がにっぽん丸船内で買った上記5.の名著によれば、「南島は父島の南西約1kに浮かぶ無人島、小笠原でもっとも美しい島と言われる。比類なきその美しさは別天地と呼ぶに相応しい」とのこと。

7.見残してきたケータ列島

 同じく名著によれば、ケータ列島は小笠原諸島最北に位置する無人島群、孤高の島々と最果ての海はイルカや魚、海鳥の楽園。そこに広がる景色は桁外れにダイナミックだそうである。

ケータ列島は、海鳥の繁殖地としても有名、コアホウドリ、クロアシアホウドリ、カツオドリなどが営巣しているという。

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